こんにちは、ワンワンです。
少し時間が空きましたが、久しぶりの1級建築士の構造力学問題を解説します。今回は全塑性モーメント問題①ということで、2つに分けて解説していきます。
塑性問題となるとイメージがつきにくいし、分からないという人も多いかと思います。しかし、解き方をしっかりと身につければ、しっかりと得点源にできる問題となります。
塑性問題は出る頻度が高い問題なので、しっかりと理解して1点を獲得しましょう。
全塑性モーメント問題①では、塑性時の応力度分布から曲げモーメント、軸力を計算する問題を解説していきます。
この記事では、
- 全塑性時の曲げモーメント、軸力問題
について、1級建築士のワンワンが解説していきます。
塑性とは?
まずは塑性とはどういう事か?という事から始めていきます。塑性は「そせい」と呼びます。ここでは分かりやすいようにザックリとした解説になります。
下図を見てください。

縦が応力、横がひずみとなります。このグラフを簡単に説明すると、力が大きくなれば、歪みも大きくなるという比例関係がσyまで見られます。
ここが降伏点と言われる所となります。
力の大きさが降伏点を超えると、それ以上の力を負担することができずにひずみだけが大きくなっていきます。
そして、この降伏点までが弾性と言われる範囲となります。そして今までの問題は弾性範囲の問題です。

弾性とはゴムのような感じで元に戻るイメージとなります。つまり降伏点までの力は、力をかける事をやめるとひずみも元に戻る性質となります。

次にこの降伏点を超えた時から塑性と言われる状態となります。この状態の特徴として、力をかける事をやめても、ひずみが元に戻らずにひずみが残る状態になります。
ここで断面の応力度の変化を見ていきましょう。

このように力を強くして降伏度(弾性時)を超えて塑性状態になると断面の応力度が変化して、一定の力で止まる事が分かったと思います。
全てが塑性状態になった時のことを全塑性と言います。今回はこの全塑性の状態の問題を解いていきます。
問題① H型形状の全塑性モーメント問題
図のような状態の応力度は全塑性状態となっている。この時の圧縮力と曲げモーメントを算出せよ。ただし降伏応力度はσyとする。

まずは応力度の分布図を見てみましょう。
ここでわかる事は、圧縮と引張の応力度分布があると分かります。
この問題では、曲げモーメントによって生じる圧縮力と引張力が等しいという特徴を使って解きます。つまり下図のようになります。

図のような応力度の範囲で曲げモーメントが構成されている事が分かりました。
T:引張力 = C:圧縮力
この関係から引張力と同じ範囲が圧縮力となることが分かります。ここから曲げモーメントを計算していきましょう。
まずは曲げモーメントによって生じる圧縮力、引張力を負担する箇所の面積を算出しましょう。
まずは軸応力度 σ=N/A の公式を使って算出しています。
この式を変形するとN=σ×A となります。
N:C:圧縮力、T:引張力
σ:σy 降伏応力度
A:負担する断面積
負担する面積 A = 5a × a = 5a2
そして、その面積に降伏応力度のσyを乗じます。すると圧縮力、引張力が出ます。
圧縮力、引張力 N = C,T = 5a2 × σy = 5a^2σy
ここで圧縮力、引張力は同じ大きさで違う方向の力となります。これが偶力となりモーメントとなります。このモーメントが部材を曲げる力として曲げモーメントとなります。
曲げモーメントの算出には M = (C,T) × l の公式を使います。ここでlは力の応力中心間距離を乗じる事で曲げモーメントを算出します。
距離 l = 5a
M = (C,T) × l = 5a^2σy × 5a = 25a3σy
※C:圧縮力、T:引張力は同じ値なので、どちらを使っても問題ありません。
そして残りの応力度部分が軸力のNとなります。こちらは軸応力度 σ=N/A を式変形したN=σ×A を使います。

σ:σy
A:負担する断面積 a × 4a = 4a2
N = σ × A = σy × 4a^2 = 4a2σy
答えは N = 4a2σy M = 25a3σy
問題② 応力と全塑性モーメントの問題
図のような断面と形状に鉛直荷重Pと水平荷重Qが断面の重心位置に作用した時の底部(a-a)の応力度分布を示す。この時のPとQを算出せよ。ただし、断面は等質等断面とし、降伏応力度はσyとする。

この問題はまずどこから手をつければ良いでしょうか。
応力度分布と断面があるので、曲げモーメントと軸力は問題①と同様に計算できます。あとは片持ち柱の軸力と曲げモーメントを計算して、結び付けてやればOKです。
まずは片持ち柱の底部に生じる軸力と曲げモーメントを計算します。
軸力はN1 = P(圧縮) となるのはすぐに分かります。
次に曲げモーメントですが、力×キョリですね。
M1 = Q × 2l = 2Ql
これで底部に生じる軸力と曲げモーメントが算出できました。次に応力度分布から軸力と曲げモーメントを計算しましょう。
下図のような関係になることが分かります。

曲げモーメントによって生じる圧縮力と引張力が等しいという特徴を使って計算しますね。
まずは曲げモーメントによって生じる引張力、圧縮力を計算します。
負担する面積 A = d × d = d2
そして、その面積に降伏応力度のσyを乗じます。すると圧縮力、引張力が出ます。
圧縮力、引張力 N = C,T = d2 × σy = d2σy
圧縮力と引張力の応力中心間距離 l = 3d となります。
M2 = (C,T) × l = d2σy × 3d = 3d3σy
そして軸力は残りの部分となりますね。

N=σ×A
σ:σy
A:負担する断面積 2d × d = 2d2
N2 = σ × A = σy × 2d^2 = 2d2σy
水平力Qと軸力Pが作用する事で、底部の曲げモーメントと軸力が応力度分布のように生じるわけです。あとは計算した数値を繋げてまとめるだけですね。
N1 = N2
P = 2d2σy
M1 = M2
Ql = 3d2σy → Q = 3d2σy/l
答えはP = 2d2σy Q = 3d3σy/l
「1級建築士 構造力学 全塑性モーメント問題①」まとめ
弾性と塑性について

弾性は降伏点まで、塑性は降伏点を超えた所。

全てが塑性状態になった時、全塑性となる。
全塑性曲げモーメントの問題の解き方
曲げモーメントによって生じる圧縮力、引張力が等しいという特徴を理解する。
まずは圧縮力、引張力を負担する断面積Aに降伏応力度σyを乗じる事で、圧縮力、引張力(C,T)を計算する。
そして、圧縮力、引張力の応力中心間距離( l )を圧縮力、引張力(C,T)に乗じる事で曲げモーメントを算出する。
N = C,T = A × σy
M = C,T × l
軸力は残りの応力度部分が軸力となる。負担する断面積Aに降伏応力度σyを乗じる。
N = A × σy
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